バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

正義とは【ディクライアン編】

「失礼するぜ、九のばあさん」
それだけ言ってディクライアンはNOGIの医務室に入ってきた
「なんか用かいな、ディック」
「いや、ベッド借りに来た」
ディクライアンはそれだけ言うと、「無粋やわぁ」という九の声を聞かずに奥のベッドに転がった

「それで、見つかったん?」
「何が」
この男の探しているものと言えば一つしかないというのに
「うちに言わす? 「正義」や「正義」。見つかったんか?」
「……」
頭の後ろで両腕を組み、ディクライアンは暫く考える

「あんた、この期に及んでまだ見つかってないとか言わんといてや」
「悪いかよ。誰も納得する答えを出してくれやしねぇんだからよ」
「初対面でうちに弾丸埋め込んだの誰や」
九は呆れかえって湯気の立つ緑茶をすする

「もういっそ大統領のところに行ったら」
「それはしねぇ」
冗談半分の提案だったが、存外真剣に返されて九は固まる
「な、なんやあんた。何かやな事あったか?」
「大統領には……訊きたくねぇんだ」

彼にとってはそこが最後の砦だった
もし彼が「正しい」答えを返してくれなかったら
自分は撃つのを我慢できるだろうか

いや、それは決してない
自他ともに認めるトリガーハッピーに、銃を撃たない理由はない

「……」
この体が動くうちは
引き金が引けるうちは
大統領には「正義」の正体を訊くことはないだろう

「……あんた、怪我してるんやあらへん?」
「げっ、いつ気づいた!」
「見てりゃわかるわ! ちょお、見せてみんかい!」
九に包帯でぐるぐるまきにされるのに時間はかからなかった