バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

24 間違ったやり方

「何なのよ、これ……!!」
その日、喜咲華怜は怒っていた。彼女の向かう先にはパソコンの画面。
「いかがいたしました、華怜様」
「いかがも何もなくってよ! これ、見なさい、芭虎!」
「はぁ」
ティーセットを机に置き、喜咲と同い年で執事の芭虎はパソコンの画面を覗く。
「……最近のヒットチャートじゃないですか。これが何か」

 

「芭虎。貴方、私の「Beau diamant」の実力、侮ってるわけじゃないでしょうね?」
「いいえ。どころか私も加盟しておりますので、全力をつくさせていただいております」
「それが、デビュー曲を出したのに全く相手にされてないのよ!」
高い声を上げて憤慨する喜咲に、芭虎は落ち着いた声で返す
「華怜様。高々一曲二曲でヒットを打てる曲などそうそうございません。これから実績を積み上げていけばよろしいと」
「そういう問題じゃないの! 見なさい、ここ!」
喜咲はパソコンの画面を指で指し示す。

 

「……「salvatore」……?」

 

眉間にしわを寄せる芭虎に喜咲は続ける。
「いいこと? これだけスーパーで、ハイパーで、エレガントな曲を上げたにもかかわらず、チャートの話題は「salvatore」とかいうぽっと出ばっかりで持ち切られてるのよ!?」
「お言葉ですが、我々の方がデビューが遅かったはずでは」
「そういう意味じゃないの!」
芭虎は喜咲が何を言いたいか分からずに困惑する。
「貴方、ご存じ? 「salvatore」は高校生の音楽グループよ。私たちと! 同じ! 高校生が! 私たちよりちやほやされるなんて許せるわけないじゃないの、きーっ!!」
ああ、なるほどと、芭虎は綺麗な顔面を崩して猿のように唸る喜咲を見る。

 

「許せない。許せないわ。何とかならないものなの?」
「音楽で見返してやればいいだけの話では」
「腹の虫がおさまらなくってよ。こうなったら、徹底的に叩き落してあげるんだから!」
芭虎は喜咲の見えないところで苦い顔をしていた。この人はいつもそうだ。努力の方向を、いつも間違っていた。