バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

18 その夜、青い鳥と暗闇の主

「どうしたの、日菜? いつもよりニコニコして」
「えへへぇ、嬉しいことがあってさぁ」
母親に言われるまでもなく、羽鳥は自分で頬が緩んでいるのに気づいていた。理由は言わずもがな、安藤の誘いで結成されたユニットである。
トイプードルのクッキーちゃんをなでながらも羽鳥の頭には延々と音楽が流れ続けている。

 

自分の力は微々たるものかもしれない。それはずっと思っている。自分は音楽の知識も機械の知識も影響力もない。ただ、歌うのが好きな高校生。
それでも、選んでくれた安藤や受け入れてくれたみんなのために。
この先どうなるか分からない不安こそあるが、それはひとまず置いておいて、ひたすらに楽しもうと決めたのである。
こうして、羽鳥日菜の夜は更けていく。

 


声が聞こえる。両親の声だ。
自分に音楽の道を示した、自分の音楽の道を押し付けた両親の声だ。
お望み通り音楽の道に進んだというのに、自分を情けないとしかりつける声だ。

 

『よしくん、大丈夫?』
心配そうな虎屋の声に、我に返る。そして慌てて、震えた声で返す。
「大丈夫だ」
『……』
虎屋は返答しない。大丈夫じゃないのを見抜いているのだろう。
「そんなことより、新曲なんだが」
『……そうね。ユニットも組んだし、早速曲作りしなくちゃ』

 

“salvatore”。救世主。それは自分の願いでもあった。
救世主になりたいんじゃない。自分を救う救世主を求めていたのである。

 

ああ、いやだ。どいつもこいつも「ノイズ」を吐きやがって。