バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

23 わからないから

「……すまないな、北河」
「気にすることないよ。曲作りのノウハウがただで教えてもらえるチャンスなんだからさ」

 

遡ること数日前。
虎屋は丸久と北河を呼び出し、安藤の事を相談した。
「なんとか親元から離さないと、そろそろ頭がバグるとか言ってて……」
虎屋の様子を後ろから見ている羽鳥は、実際にその状態を見ているのでおろおろするしかなかった。相談する相手も同年代しかいない。どうする、と思ったその時、北河が手を挙げたのだ。
「だったら、うちに置いとけないかな。マネージャーとして放っておけないしね」

 

北河は安藤に、曲作りの基礎を教えてもらうことを条件に彼に部屋を貸すことにした。
自らも活動として配信を行っている身分。お互いに勉強するところがあるだろうと安藤に話を振った。
そして、両親の不在を狙って、安藤の部屋の機材が全部運び出された。

 

「……北河」
「なぁに」
安藤は運び込まれた機材をいじりながら北河に声をかけた。
「マネジメントが仕事って言ったけどさ、あんまり無理すんなよ。こんなの、特例だろ」
「まぁね。でも、salvatoreのメンバーだったら誰でも同じことをしたかな」
「本当か?」
北河は笑いながら返した。
「僕はいつか、自分の手でアーティストを羽ばたかせたいからね。salvatoreは、初めて僕が世に広めたいと本気で思ったアーティストなんだ。そのためなら骨身も削るつもりさ」
「……ありがとな」

 

安藤には分からなかった、北河の本気度が。
北河には分からなかった、安藤の苦しみが。
それでも、貴方を支えたかったんだ。二人は思っていた。