バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

留守番たちのティータイム

研究に煮詰まった梨沢が階下に降りると、居間には二人しか姿が見えなかった
「おい、柿本」
梨沢が声をかけると、ティーカップを並べていた少年が振り返った
否、少年ではない。彼は「少年の姿をした少女」である
「どうした、梨沢」
僅かに笑いながら彼女は言う

「他の奴らは何処に行った?」
「ルイウの討伐。レベルが高いのが大量発生して、手に負えないって連絡が入ったんだよ」
柿本と呼ばれた少女は、やや慣れない手つきでカップに紅茶を注いでいく
「お前が行かなかったのは意外だな」
「今日のところは真苅と栗原のレベル上げも兼ねたいって梅ヶ枝が」

ふーん、と生返事を返しながら、梨沢は奥のソファに座っている少年を見た
道化師のような奇抜な服装の彼は、膝にすり寄る小さなルイウの頭を撫でている
「あのルイウ、やたら林檎になつくよな」
「あれだけじゃないよ。敵意のないルイウなら、大概林檎になつく」
梨沢の独り言に柿本が返した

「……あ」
林檎がこちらを見た。目の焦点があっていないような気もするが
「……梨沢?」
「ああ。最近調子はどうだ、林檎」
「いつも、どおり。何も、ない」
途切れ途切れに言う林檎の様子を見、梨沢はまた一つため息を吐いた
「本当に変わらねぇな。薬での維持が限界か」

「いいんじゃねぇの、今の所生活に支障はないんだし」
柿本はそう言ってカップを置いた
「お茶、用意できたから先に飲もうぜ。ほら、梨沢も」
「てめぇの紅茶は渋すぎて飲めたもんじゃねぇんだよ」
梨沢はひらひらと手を振り、「梅ヶ枝が帰ってきたら呼んでたって伝えてくれ」とだけ残して居間を出た

林檎は既にルイウとのじゃれあいを再開している
「何だよ、あいつ。つれねぇの」
残された柿本はそう呟いた