バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

共闘戦線

「ちっ、やっぱ【6】相手はきついな……」
盾を地面に突き立て、梨沢は呟く
研究のネタ探しにルイウの討伐を行っていたら、自分のレベルより上のルイウに遭遇してしまったのだ
そのまま見逃しても良かったのだが、先に住宅地があるのを思い出し、舌打ちをしながら立ち向かっているのである

相手はレベル【6】の熊型のルイウ
機敏さに欠けるが純粋な力においては圧倒的に不利であった
ルイウが振り下ろす爪を盾で防ぎながら、梨沢はあたりを見回す
どこかに打開策がないか。そう思っていた
そうして「あるもの」を見つけた梨沢は、僅かに口角を上げた

「あーっ!」
突如として梨沢は大声を上げる
それにひるんだルイウが爪を外して大きくバランスを崩したのを見計らい、梨沢は盾を外して走り出した
それに気づいたルイウが梨沢の後を追う
ある程度後退した梨沢は振り返り、再び襲い掛かってきたルイウの爪を盾で受け止めた
と、同時に僅かに姿勢を屈めた

瞬間、ルイウの額に何かが突き立てられた
その金属の爪の先にいたのは、梅ヶ枝
彼は梨沢の元まで駆け寄ると、僅かに屈んだ梨沢の背と盾のへりを踏み台に飛び上がり、自らの武器である金属の爪をルイウに突き立てたのである

前方に倒れ掛かるルイウ
その顎めがけ、梨沢はもう片方の盾のへりをアッパーの要領で突き上げた
のけぞるルイウにとどめを刺すように、着地した梅ヶ枝が、手刀で首を切り裂いた

「……ふう、間に合ってよかったですよ、梨沢様」
灰になっていくルイウを見やりながら梅ヶ枝は言った
彼はたまたま別の用事で外出していたのだが、その姿を見つけた梨沢が声を上げたために事態に気が付き、駆けつけたのである
「危うく死ぬところだったからな。今回ばかりは感謝する」
梨沢は無表情で返した

「わりぃな、梅ヶ枝。あとは俺が何とかしておくから、お前は行ってもいいぜ」
「……いえ、少し遅れますが、私も後片付けを手伝いましょう」
「「遅れる」?」
梅ヶ枝が言った言葉を理解できずに梨沢は首を傾げる
簡単に事後処理を終えた梅ヶ枝は、不意に方向を変え、梨沢につかつかと近づいてきた
そして、「な、なんだよ」とたじろぐ梨沢を、不意に抱え上げたのだ

「な、なにしてんだよ馬鹿! 下ろせ! 今すぐ下ろせ!」
「先ほどの処理に感謝しているのであれば少し付き合ってください。手荒な真似はしませんよ」
それだけ言うと、彼は梨沢を抱えたままワープホールへと歩いて行った



「あ、遅かったね」
そういいながら少女が振り向く
梅ヶ枝は「少し討伐してきましたので」と簡単に説明を終え、梨沢を地面に落とした

うめき声をあげる梨沢に、梅ヶ枝がデバイスを渡す
「呻いてる暇があったらすぐに立ち上がってください。貴方に一つお願いがあります」
「それがお願いする奴の態度かよ……。で、何?」
「私とこちらのお方、白様の模擬戦の審判をお願いしたいのです」
「はぁ?」

ようやく起き上がった梨沢は、あらためて奥にいる少女に目を向ける
白くきれいな髪をした少女が「よろしく」と手を振っていた
「……こいつ、この前模擬戦やってたやつか」
「あの後に個人的に交流しましてね。ようやく模擬戦までこじつけました」
「何したんだよ、お前」

「あーあ、そういうならしょうがねぇ。準備しろ、二人とも」
半ば投げやりになりながらも立ち上がる梨沢を見、白は僅かに梅ヶ枝に顔を寄せて言った
「あの人、ちゃんと公正な審判してくれるの?」
その問いに、梅ヶ枝は微笑みながら答えた
「安心してください。彼はああ見えて【フィジカリスト】。あらゆる規則を厳守する者ですから」
バイスを操作する梨沢を見ながら、梅ヶ枝は笑った