バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

面白い「ヒト」

「……ちっ」
舌打ちを一つ打ち、梨沢は路地を歩いていた
探偵事務所のメンバーが全員手が空いておらず、おつかいを任されたのである
チームでもないのに何で俺がとブーイングしたが、普段一室を借りている上に事が進まないのを嫌う梨沢は仕方なく引き受けた

袋の中のものをいぶかしげに見る梨沢
彼が少し遠くまで受け取りに行ったのは、袋の中身を受け取るためだった
それは、シロップ状の薬。甘い匂いがしたのを梨沢は覚えている
「こんな薬もらってまで育てる意義なんてあるのかねぇ」
独り言を呟く彼の頭には、この薬を使う少年の姿が浮かんでいた

「……ん?」
ふと視界に見覚えのある何かが入り、梨沢は振り返る
赤と白の奇抜な服装に身を包む「その人物」
その傍らには白髪の背の高い青年
「またあいつは何かやらかしたのか……?」
梨沢はため息交じりに呟き、方向を変えた

「……あ」
「あれ?」
近づいて気が付いた
青年の傍らにもう一人、人が立っていた
それは梨沢も何度か顔を合わせている少女で
「白さんじゃねぇか」
「梨沢君!」

白の反応で気が付いたのだろう。青年と「その人物」も振り返ってこちらを向く
「もしかして、この子の知り合い?」
白は「その人物」の頭をかるく撫でながら言った
梨沢は一つ頷きながら言った
「ああ。林檎が世話になったみたいだな。悪い」

白髪の青年は八雲と名乗った
なんでも、道端を歩いているところに小型のルイウを追いかけて迷子になった林檎を保護したらしい
ところがうまい具合に意思疎通ができず、白にも来てもらって相談していたのだとか
「相手が林檎じゃ仕方ねぇ。今度何か奢るように梅ヶ枝に言っておくから、それで許してくれ」
「あんたが奢るんじゃないのね……」
「他人じゃないがチームでもないんでね。責任は向こうに預けてるんだ」

「……梨沢」
服の裾を引っ張って林檎が声をかける
そうして白たちを指さして言った
「あれ、人、なの?」
「……え?」
白と八雲がきょとんとする中、梨沢は慌てて林檎の口を塞いだ

「馬鹿、あんなでかい人形が動くなんて滅多にないって何度言わせるんだ」
「……そうなの?」
「この鶏頭……」
梨沢は頭を抱えた。その横で白と八雲は顔を見合わせて少し笑った

「人形かぁ。そんな発想はなかったかも」
「悪いな。こいつ、「モノ」と「ヒト」の判別がつかなくってな」
「いいんじゃない、それでも。面白い発想をするじゃないか」
「うん。そんな子もいるんだなぁって初めて知った。色んな人がいるんだから、認めてあげてもいいんじゃない?」
そうは言ってもよ、と梨沢はやや弱り切った声をあげる
そんな三人を見やりながら、林檎は首を傾げた

「じゃ、俺と林檎はこれで。世話かけてすまなかったな」
「ううん、全然平気。ねぇ、今度模擬戦しない?」
「かまわねぇが手加減はしてくれよ。俺はどうも戦闘には不向きでな」
梨沢はそう言い、林檎の手を引いて去っていった

「面白い子もいるもんだね」
「探さなくてもいろんな人がいるってことだ」
白と八雲はもう一度顔を見合わせた