バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

65 不揃いの情報

「成る程。つまるところ、草香さんは今まで名瀬田によって保護されていたことで、現在まで故障せずにいられたのですね」
ティーカップを置いてルソーは言った
休日のルソーの自宅。フブキはハシモトからの電話に出ていて居間にはいない
俯く草香はそれでもわかるように頷く
「私の電源は、私の「仲間」がいなくなった直後に名瀬田によっておとされたものと思われます。……悔しいですが、あの人はこういう話で嘘はつきませんので」

「でも、結局その「仲間」は何処に行ったか、わからずじまいなのか」
アイラの言葉に草香はもう一度頷いた
「多分、殺されたんだと思います。あの人たちが殺されたなんて、信じたくないですし、信じられませんが」

「偶然とは思えない、髪の色と名前の一致。そりゃあ、身なりは変わってるでしょうけど、何かあったのではと考えるのは当然だと思います」
ルソーは机に肘をついて言った
「現に、僕を狙った依頼が急増していると、ハシモトから聞いています。『赤髪の殺人鬼』の件もあるでしょうけど」
ハシモトは報酬如何にかかわらずこの手の依頼は全て切っているらしい
稼ぎ手であるルソーがいなくなっては困るからと彼は言葉を並べているが、真相はどうかわからない

「今は小難しいことを考えられる段階じゃないんじゃねぇの」
椅子にもたれながらアイラは言った
「事が進展しない以上、情報も集められねぇし、誰も何も話してくれそうにないからな」
その視線はルソーを向いている
ルソーはその視線を感じ取っていたようで、僅かに顔をそらした

「名瀬田はいなくなりましたが、またいつ、何処で何があるかわかりません。くれぐれもお気を付けください」
草香はそう言い、紅茶を飲んだ
「気を付けろってったって何を――」
アイラがそう言った時、居間のドアが開いた
「アイラさん、ちょっといいかしら」
フブキが端末を持ちながら呼びかける

「ハシモトが、こっちまで来てほしいって言ってるのよ」
「……俺が?」
戸惑うアイラのそばで、また厄介ごとに巻き込まれるなと、ルソーはため息をついた