バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

24 真相

「出かけてきます」
そう言って清光は席から立ちあがった
「何だ、珍しいな、お前から外に出ようとするのは」
「久しぶりの外よね。気を付けてね」
道男と紫苑に軽く手を振り、清光は入り口の扉を開けた
道で朝希を連れた似長たちとすれ違ったが、特に彼は反応を示さず夜の街へ繰り出した

「……」
近くの公園のベンチに腰を下ろす
いつもは似長が座ってる特等席。そんな気がして、自然と背筋が伸びる
「……僕は、本当に生きていていいのだろうか」
ぽつりと、彼は呟いた



「やはり、何かおかしいと思ったんだ」
雷堂は頷きながら言った
朝希、猫の姿をした美紗(朝希はミーシャと呼んでいた)、そして事務所の手伝いをさせられていた優斗も集められ、事務所には清光を除くすべての人員が揃っていた

連れてこられた優斗の話では
『執行人』を名乗る女が彼の家族を惨殺したとのこと
しかし、髪の色は黒く、どこにでもいそうな普通の服装をしており、日常に紛れててもおかしくない服装をしていたという
事務所に連れてこられて『執行人』のありのままの姿を見ていくうちに、わずかながらに疑問を覚えていた

そして朝希の話
彼は警察への取材を通して『執行人』の存在を知り、本業の傍ら独自に調べていたという
似長に接触したのも、自分の知的好奇心を十分に満足させるためのものであった
そして、その研究の一環として、彼は疑似的に作った『執行人の能力』を他人に付与する実験を行っていた

「つまり、朝希さんの実験協力者の中に、優斗さんの家族を殺した犯人が?」
「まだ可能性だけだけど、十分ありうるね」
「そんなのただの言いがかりに過ぎないんじゃないの?何も、『執行人』が皆「死」を重くとらえてるなんて」
「残念だけど、それは事実なんだ」
雷堂はまっすぐ優斗を見て言った
「せっかくだ。私たちの存在について話しておこう。似長君、君の答え合わせも兼ねてね」



その時、ベンチに座っていた清光は、遠くで人影が動くのを見た
それはゆっくりとこちらに向かってくる
清光はその顔を認めると、おもわず立ち上がってしまった
そうしてそれから離れようとするが、それより先に人影は清光に抱き着いた

「私たちはね、全員、一度人生をやめて自殺しているんだ」
雷堂は指を立てて語りだした
「家族、社会、恋人、試練……理由は様々だが、ある時を境に人生を「やめた」。だが、今こうして生きているのには理由がある」
雷堂はちらりと似長を見、続けた
「私たちは神から、あるいはそれに近しいものから「生きろ」と追い返されたんだ。何故なら、私たちが死んだとき、地上にはまだ私たちの死を悲しむ者がいた」

「つまり、「愛する人を残して死んだ」存在なんだ、私たち、『執行人』は」

清光は信じたくなかった
今、自分に抱き着いている細身の人間が、自分を酷使し続けてきたはずの「自分の母親」であることに