バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

幸せになりたい

一行は困惑していた
身体にまとわりついている霧は恐らく彼の毒だ
近づこうにも近づけない

「……あっ」
鬼才が此方に気がついた
そのまま踵を返して逃げそうになる
「鬼才!」
梨沢が叫んだ。鬼才の足が止まる
「何があったんだ。説明してくれ」
あくまで冷静に彼は問う
そして、一歩出ようとしたその時

「来ないでくれ!!」
鬼才が必死に叫ぶのを初めて聞いた気がする
梨沢は前に出そうとした足を引っ込めた
彼は完全に冷静さを失っていた

「僕だって、僕だって幸せになりたい。報われない人生ばかり歩んでいたくない。幸せになっちゃ悪いの?僕はどうして幸せになれないの!?」
ぼろぼろと涙を流して鬼才が言う
常日頃笑っていた鬼才からは想像できない姿だった

その時、ヘテロ一行を追い抜いて何かが鬼才に飛び込んでいった
それは鬼才に抱きつくと、ぎゅっと身体にしがみつく
「ロイヤルさん……?」

鬼才は慌てた
「ロイヤルさん、止めてください、毒が」
「私も耐性はあるから大丈夫です」

ロイヤルは鬼才を見上げた
「今まで辛い思いをなされてきたんですね。でも、大丈夫。ここにはヘテロの皆や私がいます。一人じゃないんです。受け入れてくれる仲間がいるんです。だから、安心して」

鬼才は暫くロイヤルを見ていたが、やがて彼女を抱き返すと、声をあげて泣いた。
生前、人に嫌われた彼は、初めて「愛」を見つけた