バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

30 瞬間移動の謎(『猿回し』上)

先に蹴りだしたのはアイラの方だった
迷うことなく『猿回し』に、左腕を伸ばして襲い掛かる
が、その首を捕らえようとした瞬間
「!?」
『猿回し』の姿が「消えた」

「どこ狙ってるんだ、『折り鶴』」
そんな声が聞こえ、振り向くと、『猿回し』が海中時計を取り出しながらにやにやとしていた
「いつの間にっ……!」

「『折り鶴』、下がって!」
ヤヨイが叫び、糸を取り出そうとする
が、アイラが反応するよりも先に『猿回し』が動いていた

「っ!」
ヤヨイはいつの間にか戻ってきていた『猿回し』に両腕をとられていた
「させるかよ。あんたが一番厄介なのは知ってるんだからな」
「このっ」
ヤヨイは『猿回し』を振りほどき、鋏を取り出して彼の首を狙ったが、その手は空をかくばかりだった

「なんだよあいつ、瞬間移動なんて人間の所業じゃねぇだろ!」
やや遠くに現れた『猿回し』を見ながら、アイラは吐き捨てる
「どうあがいたって無駄さ、お前たちは、俺には勝てない」
懐中時計をもってにやにやと笑う『猿回し』

そのときだった
「……二人とも、下がって」
後ろから声。そしてまっすぐと前へと踏み出す足
左胸から包丁を取り出し、彼女は言った
「私が、あの人を殺すから」

「フブキさん、無茶だ!」
「そうよ! まだ殺人鬼としての経験も浅いのに!」
アイラとヤヨイが叫ぶが、フブキは僅かに振り向いて笑顔を見せるだけだった