30 瞬間移動の謎(『猿回し』上)
先に蹴りだしたのはアイラの方だった
迷うことなく『猿回し』に、左腕を伸ばして襲い掛かる
が、その首を捕らえようとした瞬間
「!?」
『猿回し』の姿が「消えた」
「どこ狙ってるんだ、『折り鶴』」
そんな声が聞こえ、振り向くと、『猿回し』が海中時計を取り出しながらにやにやとしていた
「いつの間にっ……!」
「『折り鶴』、下がって!」
ヤヨイが叫び、糸を取り出そうとする
が、アイラが反応するよりも先に『猿回し』が動いていた
「っ!」
ヤヨイはいつの間にか戻ってきていた『猿回し』に両腕をとられていた
「させるかよ。あんたが一番厄介なのは知ってるんだからな」
「このっ」
ヤヨイは『猿回し』を振りほどき、鋏を取り出して彼の首を狙ったが、その手は空をかくばかりだった
「なんだよあいつ、瞬間移動なんて人間の所業じゃねぇだろ!」
やや遠くに現れた『猿回し』を見ながら、アイラは吐き捨てる
「どうあがいたって無駄さ、お前たちは、俺には勝てない」
懐中時計をもってにやにやと笑う『猿回し』
そのときだった
「……二人とも、下がって」
後ろから声。そしてまっすぐと前へと踏み出す足
左胸から包丁を取り出し、彼女は言った
「私が、あの人を殺すから」
「フブキさん、無茶だ!」
「そうよ! まだ殺人鬼としての経験も浅いのに!」
アイラとヤヨイが叫ぶが、フブキは僅かに振り向いて笑顔を見せるだけだった