バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

4 本と感情

本を読んでいると疑問に思うところがある
そのときは辞書を引くのだけれど、人の感情や動作まで載っていないのがもどかしい
だから、つい先生に尋ねてしまうのだ

「先生、ここの人の動きなんですけど……」
「見せてみろ。……ここは本当はこうした方が自然なんだが」
仕事は面倒くさがるけど、本に対して先生は真摯に向き合うから、私は嬉しい

「しかし、お前も変わったな」
「私、ですか?」
「前のお前は何の興味も無しにただひたすらに本を読んでいた。それがどうだ。今は疑問に思うとすぐ訊きにくる」
「迷惑……ですか?」
「いや、喜ばしいことだ」
何が喜ばしいのか、私には分からなかった

「あ、お昼の時間ですね。すぐ用意します」
ぱたぱたと私が台所に引っ込んだわきで、先生は背表紙をなぞって言った
「本当、喜ばしいことだよ」