バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

1 上京した男

汽車に揺られて早数刻
ようやく立ち上がり荷物を地面に置いた男は大きく伸びをした
「んーっ、ようやくついた!」
男は賑わう街を眺める

時は大正、場所は帝都
田舎生まれのこの男、名を望月真という
そこそこの頭脳と体力、そして思いやりを持つ彼は渡来の文書を呼んで「でてくてぶ」……すなわち「探偵」に憧れた
意気揚々と上京した彼は帝都の端くれで一人探偵事務所を開いたのである

数日ぶりの事務所を通り自室に荷物を投げ込むと、自分もソファに身を投げた
「……あ、師匠に電報打たなきゃ」
そう口では言っても、体は動かない
ふうっと大きく息を吐き、真は天井を見た

探偵になったまではよかったが、依頼はほとんど来ない
師匠から回される依頼は遠方の物が多く、そのたびに出張するから近所からは未だに顔を覚えてもらえない
「……寂しいなぁ」
彼はそう言いながら腕を目の上に置いた

ランプもつけてない、月明りの差し込む事務所
その窓からこっそりと、一つの影がのぞき込んでいるのに、真は気づかなかった