バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

20 言えないこと

「なぁ、暁」
日が暮れた街を遠賀川と水城は歩く
「もしその、「仮面」を持つ者を見つけたとして、俺は何をすればいいんだ?」
「経験則だが、気絶させれば「仮面」は消える。でも、完全じゃない。お前の中にも「仮面」は残ってるんだろ?」
「ああ。うまく伝えられないが、何かが心臓の隅で動いてる感じがする」
「それをうまく利用するんだ。お前ならできる」

「……あれ?」
不意に水城は横を向いたまま足を止めた
つられて遠賀川もそちらを見る
路地裏の入り口でしゃがみこんで震える生徒の姿があったからだ

「もしかして、千鳥か?」
生徒はびくりと肩を震わせ、恐る恐るこっちを向いた
「水城さん、遠賀川さん……」

「何があったんだ、千鳥?」
水城が近づこうとする
「来ないで!」
悲痛な千鳥の悲鳴が「不協和音」となり遠賀川の鼓膜を貫いた
それで察した遠賀川は水城の襟首を掴んで引っ張った
何かが通り過ぎる風が巻き起こる

「来ないでくれ……」
千鳥は立ち上がる。口に手をあてているが、隙間からぼたぼたと黒い液体が地面に落ちる
「不協和音、確認。水城、今の千鳥はこちらに敵意を向けている」
「はぁ? 何で千鳥が!」

「お前たちも己を虐めるんだろう……?」
地面に落ちた液体が、ひゅるりと立ち上る
それは独特なカーブを描き、宙に浮いて千鳥を取り囲んだ
「己に手をださないでくれ。そこから消えてくれ!」

本当に言いたいことも、言えぬまま