バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

オイルの匂いとティータイム【ノイジー編】

「失礼します」

恐る恐るドアを開けてノイジーが入った場所は、技術部の作業場。ノイジーは片手にお盆を抱えて、もう片方の手で器用にドアを閉める。

「技術部の皆さん、お疲れ様です。清掃隊にお茶菓子の差し入れがあったのでおすそ分けにきました。」

 

「あー! ノイジーさーん!」

器具に埋もれて見えなかった西名が頭をひょいと上げてぶんぶんと手を振る。ノイジーはお盆を取り落としそうになるが、とりあえず奥のテーブルまで運んでいく。

「ほむ、それはおはぎかの?」

道の端にいた米子が振り返るのでノイジーは頷いた。

「はい。粒あんのおはぎです」

粒あん!」

米子が喜ぶのを見てノイジーは顔をほころばせた。

 

「ここに置いておきますね、千道さん」

テーブルにお盆を置きながらノイジーは横に見える男に声をかけた。

「では、僕はこれで……」

「……ノイジー

敵意のない「音」だと分かっていても、千道の低い声にノイジーは飛び上がる。

「ひゃい!」

「こっちに来い。一緒に食うぞ」

「え、ええ? 自分の分はもういただいたので……」

「いいから」

 

改めて技術部の面々を眺めたノイジーだったが、個性的な方々が集まっているなぁと思う。

ノイジーの横で西名がニコニコと笑っておはぎを食べている。その好意の「音」がおはぎに向けられているものだと、ノイジーは解釈することにした。

「最近、どうだ、仕事の方は?」

「まずまずですね。清掃隊が出動しないほうが当たり前なので、訓練に励むだけ励んで何も出番がないのが一番です」

「救急車両みたいだな。だが、一理ある」

 

千道は自分のおはぎを取り上げると、ノイジーの口に押し込んだ。

「もむっ!?」

「食え、食え! 俺の分なんて気にするな!」

「むぐ……っ」

何度ここに来ても彼にはかなわない。ノイジーはそれを承諾していた。

「……あなたは訓練に来ないですよね」

「それこそ、「救急車両」だからな」

ノイジーはそれが何を意味するか分かっていた。

 

「ディクライアンにもよろしく言っておけ」

「分かりました」

「ノイジーさん!この後、買い物に行きましょう!」

「えっ、今メンテの途中では」

「メンテはうちらでやっておくから行ってき」

米子が手を振る。「は、はぁ」とノイジーは声を漏らすしかなかった。