バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

盲目を騙る拳銃使い【ディクライアン編】

ディクライアン・ノーティス。彼の特徴を述べるとするならば、赤い髪に両利きの拳銃使い。そして何よりも、その目を覆う黒い目隠し。

彼はこれを外したがらない。大切にしている弟の前でさえ、仕事の時は目隠しを付けたままだった。

 

射撃練習場に来た松雪は、先客に飛び上がりそうになった。

扉の音が聞こえたので、ディクライアンも振り返る。

「……松雪か」

「ひゃ、ひゃい」

「遠慮するな。隣、空いてるぜ」

引き金に手を置くと乱射しそうなのを抑えながら、ロボット歩きで松雪は彼の隣に立つ。

 

「仕事の方は順調か」

松雪の方が年上で先輩なのだが、そんなことも気に留めずディクライアンは切り出す。

「お、おかげさまで。先輩方にはよくしてもらってますよ」

「そうか」

それだけ言うと、ディクライアンは射撃の練習に戻る。

 

「あ、あの」

松雪はディクライアンに声をかけた。

「その目隠し、外さなくても、前は見えているのですか?」

誰もが思う疑問を、松雪は口にした。ディクライアンは手を止める。

そして、何を思ったか、突然松雪の手首をとり、壁に叩きつけた。

 

「!?」

突然のことで混乱する松雪。ディクライアンはにやりと笑う。

「俺の目、見たいか?」

混乱した頭では何を言っているかも分からないが、とりあえず「は、はぃ……」と声を漏らす松雪。ディクライアンは「そうかそうか」と言って、言葉を続けた。

「でもなぁ、見せることはできないんだよ。俺、目つき悪くてさ」

その言葉が真意かどうかは今の松雪には分からなかった。

 

「見えないわけではないのですか?」

「見えなかったら拳銃なんて危ないもん使うわけないだろ?」

そもそも戦場に出れば無差別に撃ちまくるディクライアンにとっては、そんなこと些細な問題なのかもしれないが。

 

「……まだつけてるんだな、その赤い髪飾り」

彼に似合わぬ言葉と手つきで柔らかく松雪の頭をなでるディクライアン。松雪の手が震えるが、背が低いとはいえ男の力にはかなわない。

「ありがとう」

ディクライアンはそれだけ残し、射撃練習場を後にした。

残された松雪は呆然と彼の後姿を見ていた。天井には、緊張と混乱で穴が開いていた。