バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

26 天才故の期待

「ただいまー」

間延びした声で朝霧は玄関のドアを開ける。

「おかえり」

台所で炊事をしていた母が駆け寄る。

「今日の講義はどうだった?」

「面白かったよ」

適当に返事を返し、自室へと上がる。今日、大学に行かずに普通に高校に向かってたことは内緒だ。

 

「はーぁ」

制服も脱がずベッドに身を投げて天井を見る。

高校から自由登校が提示された時、両親はものすごく喜んだ。当たり前だ。成績がいいならもっと高度な学力を身に着けろということはごく自然な要求である。

しかし、と彼女は思う。彼女だって、まだ不安定な高校生だ。

完璧な女でいることをやめた。その時は母が嘆き、父が怒った。今は慣れてしまってそんなことも起こらないが。

そのくせ、成績が逸脱すると両親ともに喜んだ。

何だろう、この腑に落ちない「矛盾」は。

 

「……」

普通の人間ではいられない。だから彼女は人間観察に走った。普通の人間の「生態」が気になって仕方なかった。もっとも、自分の取り巻きはどこか変わった人のようだったが。

「……遠賀川、暁、か」

彼女の頭にはヘッドホンをつけたしかめ面が浮かんでいた。あれほどに人間に興味を持つのは久しぶりだ。彼がどんな人間か知りたい。絶望に立ち向かう彼が、見たい。

「……ふっ」

彼女は起き上がり、制服のネクタイをほどいた。