バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

3 普通の生活

「華村さーん!」
明るい声と共に音高くドアが開かれた。その音にびっくりして布団にうずくまっていた華村が飛び起きる。
「な、な、……なんだ、カワウチちゃんか」
「そうっすよ! 世紀の雑用係っす!」

 

昨日、四神の申し子に挨拶を終えた華村、斎藤、立花は、この小さな少女、カワウチアケミの案内により部屋を振り分けられた。完全個室だったのに驚いていたが、斎藤と立花は一つの部屋にまとまったらしい。
今までのつかれがどっと出たのだろう。夕食と入浴を終えたころには眠気が彼を襲い、そのまま布団を敷いて眠ってしまった。

 

このカワウチアケミという少女。献身的でよく笑い、華村たちにも初対面でなついてきた。
しかし、彼女もまた、「忌み子」の一人らしい。田辺が拾った時には反抗的でよく噛みつき、ここまで育てるのに結構な労力がかかったという。そのせいか、今では何か見つけるとすぐ行動に出る雑用係の鏡にまでなったという。

 

「カワウチちゃん、朝から元気だね」
「そりゃあもう、しっかりご飯食べて元気も元気っすよ!」
「……僕も、ご飯食べなきゃ、だね」
「当然っす! 腹が減ってはなんとやらっすから!」

 

正直、信じられなかった。
普通にご飯が食べられて、普通に入浴できて、普通に眠れる。
そんな「普通」が、忌み子の自分にはないも同然だった。
だから嬉しかった。一人の人間として扱ってくれる人々が、ようやく目の前に現れてくれたのだから。

 

「ありがとう、カワウチちゃん」
「気にしないでほしいっす! ご飯食べてる間に掃除しちゃいますね!」
笑顔で言うカワウチをかるくなで、華村は布団をたたみだした。