バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

5 『弁護士』と『ハシモト』

「あの、私はアンドロイドなので、食事は必要ないのですが」
草香が来て一週間。最初は突然連れてこられて驚いていたフブキも、彼女を受け入れていた
「食べられないわけじゃないんでしょ?それに、水だけおいてたらあまりに質素で、こっちも楽しくないのよ」
「はぁ……」

「ルソー、貴方もいつまでも資料とにらめっこしてないで、ご飯にしなさい」
「……わかりました」
テーブルに広げていた資料をまとめ、ルソーも席に着く
目の前に置かれる同じ食事。同じ食器。同じ笑顔
ああ、これがずっと続けばいいのに。ルソーはそう思いながら箸を手に取った

全員が食べ終え、食器を下げていたころ、玄関のチャイムが鳴った
「あら? こんな時間に誰かしら」
「僕が出ます」
ルソーは素早く玄関まで向かい、ドアを開けた

「よっ、ルソー」
「ハシモトさん」

「なぁに? 誰が来たの、ルソー? ……あら、ハシモト!」
後ろからフブキと草香が顔を出す。草香は少し眉間にしわを寄せた
「久しぶり。元気にしてたか?」
「当たり前じゃない。貴方の方こそどうなの? やっぱり仕事で忙しい訳?」
「ははっ、まァね。つい昨日、出張から帰ってきて、今日一日は休みって訳」

「……誰ですか、あの人」
怪訝そうに草香は呟く
「おー? そこの嬢ちゃんははじめましてかねェ?」
「なぁに、草香ちゃん? 人見知り?」

「えっとですね、草香さん。彼はハシモトさんです。法律相談所の職員をしてまして、姉さんの旧友でもあるんです。僕も何度か仕事を一緒にしてまして、時々こうやって来てくれるんですよ」
「そういうこったァ。よろしく、嬢ちゃん」
にっと笑うハシモトに、草香はただ「はぁ」と呟くばかりで、まだ睨んでいた

「じゃ、久しぶりに会ったことだし、フブキ、ルソー借りてくぜ」
ハシモトはそう言うと、ルソーの肩に手をまわした
「はいはい。「男同士で話したいこともあるんだ」でしょ? ルソー、飲みすぎには気をつけなさいよ」
「はい。草香さん、姉さんをお願いします」
「……わかりました」

ハシモトの車の助手席に乗り込んだルソーは、シートベルトを締める
「さて、どこ行くよ?」
「……用事があるんでしょう。手短に済ませてください」
「おーおー、冷たい奴だなァ。ま、そういうことなら事務所に直行するわ」
エンジンのスイッチを入れたハシモトはちらりとルソーを見やった

「仕事だぜ、『弁護士』」
「早くしてください、『ハシモト』」