バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

文章特訓SS タグ編「彼岸花」

花の名前文字書きワードパレット「彼岸花

「遠い記憶」「真紅」「貴方だけを」

 

大人の事は、全部ツバサちゃんに教えてもらった。
 中途半端に大人のふりをしていた私に、マナーとルールと大人のたしなみを教えてくれたのは、いつもツバサちゃんだった。遠い記憶なんかじゃない。もっと近くて、暖かいもの。

 

「ツボミちゃん、衣装のクリーニング回収してきたよ」
「ありがとう、ツバサちゃん」
ニチアサの女の子ヒーローみたいな服が私たちの仕事着。夢を与えるのが私たちの仕事。

 

 私は女の子が大好き。普通の好きなんじゃない。もっと胸苦しくて、きゅんきゅんして、ドキドキするもの。それは皆に言ってる。偏見だって受け入れていた。
 けれど、皆にも、ツバサちゃんにも秘密にしていること。「私が一番好きなのはツバサちゃんだ」ってこと。言えるわけないんだ。こんなこと。

 

「貴方だけを」
ツバサちゃんに似合うのはブルーベースの落ち着いた化粧。間違っても真っ赤な唇は似合わない。
「貴方だけを」
でも、化粧箱の中に潜んでいる真紅の口紅で私に愛を描いてほしい。
「貴方だけを」
我儘なのは分かっていた。でも、言いたかった。

 

「貴方だけを愛しています」

 

偏見がはびこるこの世の中で、そんなこと言えるはずもなかった。