バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

32 すれ違い、意志

「ったく、無茶しおるわ」
巌流島はつぶやいて膝をつく。「素質」により過度に集中力を高める巌流島のルーティーンは瞬間的な爆発力はあるが、前後で動けない時間ができる。本人に力はあろうと戦闘に向かない「素質」であることには間違ってないので普通は隊士を誰かしら連れていくが、前線に人間がいると聞いて飛び込んでしまった。
「おじさん、大丈夫?」
白服の女性たちが駆け寄る。まだ立つには時間がかかりそうだ。

 

「すまぬ。危険と思って叫んでしもうたわ」
「ううん、ありがとうございます。おじさんも危なかったのに」
青髪のポニーテールの女性が優しい声で返す。
「ツバサちゃん、肩を貸してあげよう」
金髪のツインテールの女性の声に巌流島は手を挙げて制する。
「構わんでいい。少し動けんだけじゃ。わしは重いしの」
「そ、そう? なら、いいんだけど」

 

「御館様!」
少し遅れてやってきた甲賀が走っていく。
「知り合い?」
「ああ。伴侶だ」
「「伴侶!?」」
白服の女性たちが驚く。甲賀にはその言葉に少し赤くなりながら聞いた。
「あなた方は?」
「私、紫音ツボミ。こっちはパートナーの蒼音ツバサちゃん」
「怪物と戦ってたところを助けてもらったんです。お世話になりました」
「そう。こちらこそお世話になったわね。私は甲賀忍。彼は巌流島元禄よ」
微笑みかける甲賀。静かになった空気で意志がまとまりそうになっていたのだが。

 

「おーい! 巌流島!」
遠くから聞こえる声に、白服の女性たちが反応する。そっと巌流島達の元を離れる。その顔に、先ほどまでの輝かしい笑顔はない。
「来たわね、『四神の申し子』……」
石川が顔を出す。巌流島の無事を確認し一瞬ほころんだが、その手前にいた二人の女性の雰囲気に、すっと表情を消した。
「貴方達だけは、許すつもりはないんだからね」
「……元狂信者か。弁明は疲れるんだよなぁ」
石川は拳銃を構えた。