バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

字書き地獄 イメージ一文編

フォロワーさんから出だしをもらったので書いてみました。

微グロ注意。

 

床を這いずり、どくどくと血を流し続けているのは書庫にあった古い本だった。
 芋虫の皮のような素材の表紙ですべからく大切に扱わなければならないものだったが、誤って爪を引っかけてしまったのだ。
「先輩、やっちゃいました」
虚空に向かって声をかけると、そこにあった闇がぎゅっと凝縮し、弱い光を放つランプを持った人の姿に変わる。なんてことはない。そこにいたから呼んだだけだ。
「あーあ。こいつ弱いもんな」
「すみません、うっかり」
「いんや、初心者は皆一回はやるから気にすんな」
一体何人の爪の餌食になったのか、と考えてやめた。何もこの本ばかりが引っ掻かれるわけではないだろうから。
 なんて考えている間に本を拾い上げていた先輩はさっさと治療を済ませて適当な本棚に放り込んだ。正直そっちのほうが扱いが雑な気がしたが、「打撃には強いんだよ」と先輩は言う。なるほどあの手触り、わからないでもない。
 しかしまぁ、今時人皮で作った本が何よりも扱いやすいとは皮肉な時代になったものだ。かつては牛や馬の皮も使われていたそうだが、そんなものもうこの世界にはいない。食いしん坊の魔王が全部食べてしまったという昔話を聞いて育った身だが、信じざるをえないというか。今やこの世界で肉は高級品だ。それも、食べられるものは「家畜として育てられた」人間の肉。
 時を数えるのは忘れた。時代は人間だけが生きる時代。人間が食い、食われる時代だ。