バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

11 荒削りの宝石

「……なーにが迷ってた、ですって?」
息切れするほど大声で歌ったのは初めてかもしれない。でも、うるさくはなくて。一人その歌声を聞いていた虎屋はにやにやと笑いながらこちらを見ていた。
「今の歌い方、サイコーじゃん。最初のうちはなんか迷ってたみたいだけど、サビに入る前位から安定して素直に歌えてたと思う。素人の感想だけど」
「……よかった……」
自然と零れる笑顔。スポーツドリンクを飲んでる間、虎屋はスマートフォンをいじりながらこちらに声をかけた。
「きっと、よしくんはその素直な声が好きになったんだと思うんだ。何かつかめた?」
「うん。聞いてもらってよかったかも。ありがとう、イズミちゃん」
「やだなぁ、私は何もしてないわよ」
遠慮気味に手を振る虎屋。
「それよりも、今の感覚大切にしたいでしょ?外で待ってるから、終わったらクレープ食べに行きましょ。収録、頑張って」
「うん。ありがとう」

 

『って、ことがあってさ。どうよ、出来上がった音源?』
数時間後、羽鳥から送られてきた音源の編集に着手していた安藤は、横で虎屋の通話を流し聞きしていた。
「うん。求めていた歌声はちゃんと出ている」
『よかった』
「……あの子、まだ粗削りだけど、きっと磨けば光る」
『でも、いつまでも捕まえておけないんじゃない? それとも、何か考えてるの?』
確かにそうだ。実際に面と向かったとはいえ、形の上では一度きりのコラボ。だが、安藤はここであきらめたくなかった。

 

あの歌声を初めて聞いたときから、彼は羽鳥に「惚れて」いた。

 

「……イズミ、相談があるんだが」
『何?』