バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

18 決意:朱雀組の場合

「浩太さん!」
ばたばたと扉を開けて駆け寄る華村。浩太は医務室のベッドに腰かけてこちらを向いて微笑んだ。
「よかった、無事みたいですね」
「君なら来てくれると思ったよ。ありがとう、華村くん。幸いにも、この医務室は結界が張ってあるんだ。何かにかかっていても、ここなら無効化できる」

 

「選抜の話はもう聞いているね?」
浩太の問いに、向かいに座った華村は頷く。
「まぁ、君のことだから、役立たずの僕がとも思ってそうだね」
「よくわかりますね……」
「ここの子たちは皆素直だからね。……とはいえ、情に訴えかけるのは止めよう。僕からの見解を、素直に話したうえで説得させてもらうよ」

 

「君の素質。……君自身は嫌いだろうけど、「美麗」の効果は一時的な動きの制限、操作。それはこの前の組手で分かったと思う。でも、君がその能力を発揮するのは、強く相手を引き付ける必要がある」
そこまで聞いて浩太はこちらを見たので、華村は頷く。
「ここで考えてみよう。そういう能力の性質上、わざわざ動きを止めてまで味方を操るのは危険だ。敵側から動きを強制されている場合を除き、こちらの力が手薄になってしまうからね」
「加えて、ここに残ると、その素質が十分に発揮されない……」
「そう。奇襲の可能性はあるけれど、確定ではない。君の力を、君が認められないまま腐らせたくないんだ」

 

「頭のいい君ならわかるはずだよね」
優しく語りかけてくる浩太の言葉は、逆に説得力を持って自分を囲む。分かっていた。浩太は自分に断らせる気はないと。
 それに、自分だって、断るつもりはなかった。
「……忌み子を、救うかもしれないんですよね」
「少なくとも、この異変が解決すれば「忌み子」という垣根が消えるからね」
「……やります。やらせてください」
もう二度と、「吸血鬼」なんて生むもんか。華村の強い意志を宿した銀の眼は、そのつもりがなくても引き込まれそうだと浩太は思った。