バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

12 歌うことの責任

「ええっ!? ユニット!!?」
「こら、声が大きいわよ」
ひっくり返った声で絶叫した羽鳥の口を虎屋は流石に塞ぐ。だが、羽鳥が椅子から転げ落ちそうになるのも無理はない。
「前に録ってくれた歌、覚えてる? あれ、よしくんのチャンネルですごい勢いで伸びててさ。よしくん自身もますます羽鳥ちゃんの歌に惚れちゃって」
「で、でも、ユニットって、何すればいいの? 私、それこそ歌うことしかできないよ?」
「そんなこと言ったら、私だって作詞だけでよしくんについていってるんだから。で、どう?」
突然の申し出に混乱する羽鳥。息をなんとか吸って、吐いて、やっとの思いで「ちょっと考えさせて」と絞り出すことができた。

 

 歌うことが好きだ。
 でも、それだけだ。羽鳥日菜は歌うことが好きなだけで、自身では特別綺麗な声でも、うまくもないと思っている。好きな歌をのんびり歌って、ちょっと褒められればそれでいいかなと思っていた。
 けれど。
「……」
 ユニットを組んで、一番目立つところに立てるだろうか。それだけの期待を背負えるだろうか。

 

 羽鳥は、初めて歌うことに「責任感」を感じた。