バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

35 一番は私よ!!

「むーかーつーくー!!」
喜咲は荒れていた。グレフェスの一回戦を突破したにも関わらず、だ。
「むかつく、むかつく、むかつく! 何よあのぽっと出の女!!」
「お嬢様らしくないわよ、喜咲。もっとしとやかにできないの?」
「うるさいわよ辻宮。私には敬語を使いなさい」

 

喜咲の怒りの矛先は、最近頭角を現したネットミュージシャングループ「salvatore」。目につくようになってからイライラしていたが、グレフェスの第一回戦で思わぬパフォーマンスをして、票数の3分の1をかっさらったという。
「たかだか泣いたくらいじゃないの! 普通だったらあんなメンタルで立てるわけないじゃない! なーにが演出よ、ムカつくわね!」
「一番ムカついてるのは、salvatoreが私たちと同じ高校生だからでしょ」
「辻宮!」
「お嬢様、落ち着いてください」

 

「……でもさぁ、ヒットしたのはパフォーマンスだけじゃねぇと俺は思うな」
3人から少し離れたところでパソコンのキーを叩くのは、DJの菊園。
「楽器選びから曲の構成、音質までこだわってやがる。打ち込み音源だがそれを思わせないリアリティ、俺でも出せるもんじゃないな、これは」
「いいじゃないの! 私たちはピコピコで攻めてるんだから!」
「「チップチューン」くらい言えないの?」

 

「次のバトル、salvatoreも同じグループに入ってたよね」
辻宮の声に喜咲は足を踏み鳴らす。
「だったら、ここで圧倒的な実力差を見せるわよ! あのグループをみじめなまでにコテンパンにしてやるんだから!」
「……負けフラグ立ってんぞ」
「うるさいわね! 一番は私たち、Bear diamantよ!!」

 

この我儘お嬢様は、人に遠慮するということを知らない。
彼女の「やり口」が、salvatoreに牙をむくこととなる。