バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

36 アンチコメント

「……で、その悪口コメントが増えてきたと」
ため息交じりに虎屋は言う。北河は苦笑いから表情が変えられない。
「相変わらず投稿者は一人だけどね」

 

「痛くもなんともない、といえばうそになる。前から散見していたけど、最近よっぽど評判を落としたいのか、嘘偽りも書きこまれるようになった。訓練された評価民はいいけど、特にネットを使い始めた若年層が数人信じ込んでいる」
「北河くん、あんたネットオタク?」
「今更だよ? それに僕はsalvatoreのマネージャーで、動画配信者だし」
北河はノートパソコンのキーを叩く。
「相手はよっぽどこちらの評判を落としたいらしい。それに多分、グレフェスの関係者だ」
「どうしてわかるの?」
「一回戦勝ち抜けた直後から増えだしたからね。対戦者の組、もしくはそのファンの中に犯人がいるんじゃないかと踏んでる。まぁ、素人の推理だけど」

 

「イズミちゃん、分かってるよね。この内容は安藤君にばれても」
「ひなちーやなっちゃんにばらすな、でしょ。あの二人はポテンシャル高いけど、心はまだ弱い。私でも分かるわ」
「君だから、だよ。だから、メンタルを傷つけて作品に影響を出したりしないようにしなきゃっておもってる」
「厄介よね、アンチって。私も嫌い」
そう言う虎屋の顔に影が差したのを、北河は黙ってみていた。

 

「今日はありがとう。お茶代、僕が持つよ」
「いいわよ、自分の分くらい自分で」
「ねぇ」
席を立った北河と虎屋に、後ろから声がかかる。振り返ると緑のブレザーの、自分たちと同じくらいの女の子が立っていた。
「貴方達、salvatoreの関係者って、本当?」
「……貴方は?」
「お願いがあるの。聞いてもらえないかしら」
女の子が頭を下げるので、北河と虎屋は顔を見合わせた。