バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

39 私立絢爛高校軽音部

私立絢爛高校。ここは、富裕層の学生が通ういわゆるお嬢様高校だ。純粋な学力で入学を果たした辻宮にとっては遠い世界の人間たちが通う場所。
それでもよかったのだ。学費を免除してもらったうえで満足に勉強ができて、大好きな音楽ができて、青春というものを堪能できれば。

 

「あら、ごきげんよう、辻宮?」
後ろから声をかけられて振り返る。お嬢様をそのまま型に流し込んだような、ブロンドの髪の女生徒。
「……おはよう、喜咲さん」
「口の利き方がなってなくてよ? 私を誰だとお思い?」
「いつもの事じゃない。用がないなら失礼するわ」
喜咲華怜。お嬢様の型は外見だけにとどまらず、わがままで、自分勝手で、自分が一番目立っていないと気が済まない。辻宮にとってはあまりかかわりたくない存在だ。それでも彼女と関係を持たないといけない事態に陥ったので、仕方なく付き合っている。

 

ベースを置くために部室に入ると、奥の方で動く男子生徒が見えた。
「……菊園」
「ん? 辻宮ちゃんか。元気してる?」
「朝から喜咲に会ったから最低ね」
軽音部の部室に居座りDJブースをいじるづける男、菊園。学校での扱いは不良生徒で授業にもろくに出ていないが、その時間を作曲家になるために当てていることを辻宮は知っている。喜咲よりも数倍付き合いやすい存在。そして、彼もまた喜咲の目についてしまった一人であった。

 

「相変わらず喜咲が苦手みたいだね?」
「あの我儘に付き合ってやってるだけマシだと思いなさいよ。そういうあんたはどうなのよ」
「んー? 面白れぇから放っておいてる。あれさー、調子乗りすぎてマジでやべーよな」
「そういうとこ嫌いじゃないわ。私も泳がされてるんだろうけど」
ベースを置いて数冊の楽譜を持ち、辻宮は部室を出ようとする。

 

「辻宮」
「? 何?」
菊園は楽譜をひらひらしながら言った。
「次のグレフェス、ベースのレベルクソあげろってお前から言ってきたけど、大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。あえて難しくしてもらってるんだから」
「あと二週間しかないぜ。頑張れ……いや、「頑張るな」、か?」
「ご心配どうも」
辻宮は今度こそ部室を出た。