バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

37 迷惑の正体

彼女は名を辻宮絢と名乗った。テクノバンド「Beau diamant」のベースらしい。その名前を聞いて、北河は思い出した。
グレフェス、次の組でぶつかるよね?」
「ええ」
辻宮の同意に虎屋は警戒する。
「何よ、言ってしまえば敵じゃない。そんな人があたしたちに用事?」
「……疑われるのも仕方ないと思ってる。でも、私はどうしても耐え切れなくて」
「「耐え切れない」?」

 

聞けば、「Beau diamant」はボーカルの喜咲華怜が自分が目立ちちやほやされたいがために作ったバンドらしい。方法は何でもよかったらしく、辻宮は半ば強制的に加盟させられた。辻宮の口ぶりからするに、相当参っているようである。
「だから、ここで貴方達に、あの女を止めてほしいの」
グレフェスで勝ち上がるのは勿論目標だけど、私たちにメリットなんてあるの?」
まだ疑いをあらわにする虎屋に、辻宮はスマホをとりだし画面を見せた。
「これって……」
巨大掲示板の、貴方達salvatoreへの書き込み。ここに書いているアンチコメントは、全部喜咲が書いている」
「!」

 

「喜咲は自分より誰かが目立つのが大嫌いなの。それが殊に私たちと同じ高校生だから、喜咲は勝手に貴方達を恨んでいる。止めないと、あの子はずっとあのままなのよ」
「……ネロくん」
虎屋の視線を受け、北河は口を開いた。
「分かった、相談は乗ろう。書き込みが一人だけというのは把握していたが、流石にやりすぎだとも思っていたからね」
「本当にごめん。……お願いします」
辻宮は視線を落とした。