バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

43 部長の決意

「ほーん……。完璧じゃん、やるね、辻宮」
菊園は感心した声を上げる。Beau diamantベース最難関の曲。菊園の作品の中でも力作のそれを、辻宮は完璧に弾き切るまでに上達していた。
「流石、軽音部部長。あんたを引き抜いた喜咲も運が良かったと見える」
「……」
「で、どうすんのさ。もう本番も近い。精度を上げることもできるが……、あんたはそうじゃないんだろ?」
「……ええ」
辻宮は完璧に演奏できるようになった。それは「あえてミスをするため」。演奏にミスを起こして構成を裏で崩していき、Beau diamantが次戦に進むのを阻止するため。
「本当にいいの? Beau diamantの敗北は喜咲の敗北だけじゃなくて、辻宮、お前の敗北でもある。上り詰めておかないと、将来的にお前のバンド活動にも支障が出るんじゃないか?」
「関係ないわ。あいつの顔に泥が塗れるなら、私の名誉くらい安いものよ」
「それに関しては俺も同意だけど。……軽音部、大丈夫なのか?」
「……あいつは、最初から「約束」を守るつもりがない」

 

辻宮がBeau diamantにいる理由。それは、喜咲が軽音部を「人質にとった」からである。
上の権力に圧力をかけられる喜咲家の権力を行使し、断れば軽音部を廃部にすると脅しをかけられている。辻宮も大好きな軽音部を守るために必死についてきた。
だが、それも限界が来た。
昨日、辻宮は泣きながら軽音部に謝りに行った。メンバーは温かく辻宮を受け入れた。気にしないでと声をかけた。彼女の最後の決心がそこでついたのである。

 

「明日、喜咲に大恥かかせてやる。私はいつまでもあいつの人形じゃない」
「……そういうことなら、俺ももろともだ」

 

部室を出たと同時に、声がかけられた。

 

「辻宮、話があるんだけど」
「……喜咲」