バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

44 切り裂かれた絆

グレフェス2回戦当日。
出演者の通用口で虎屋は腕を組んで立っていた。楽屋から羽鳥が顔を出す。
「どうしたの、イズミちゃん?」
「人と待ち合わせしてんのよ。でも、時間になっても来ないから、どうしたかしらって」
「出演者さん? 時間厳守だからもう来ててもいいかもしれないけど……?」
「ちょっと、楽屋まで行ってみるわ」
歩き出した虎屋を追い、羽鳥も楽屋から出てついていく。

 

『Beau diamant』の楽屋からは高い声が漏れ出している。虎屋がドアをノックしようとしたとき、彼女の耳に高い声が入った。
『あー、せいせいしたわ。辻宮のやつ、私たちをつぶそうとして』
「……!」
『芭虎、今回は褒めてあげる。裏切り者の始末が早いわねぇ。念を押して菊園も切ったけど、正解だったみたいで?』
「はぁ!?」
虎屋はノックもせずドアを開けた。高校生の男女がこちらを向く。足を組んだ、いかにも格式高い体をしているこの女が、おそらく辻宮の言っていた「喜咲華怜」。
「誰、貴方?」
「今、なんて言ったの? 辻宮さんをどうしたのよ?」
「辻宮? あの子は菊園と一緒に強制脱退させたわよ」
「!!」
喜咲は笑い話をするように続ける。
「あの子、わざと私たちを審査から落とすために根回ししてたんですって! 許せるわけないじゃない。私の悲願の邪魔をする奴は、どんな奴でも切るわ。幸い、軽音部には代わりのベースなんて山のようにいるし」
「……っ!」

 

辻宮が頭を下げた意味が分かった。こいつは、あまりにも、身勝手だ。
どんな理由があれ、共に歩んできた仲間を切り捨てるなんて信じられない。
自分が目立ちたいから?
――許せない、許せない、許せない――!