バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

12 朝の一報

『――この怪事件は大変悪質であると記者会見で警視庁は語り、引き続き調査を――』
翌朝、朝のニュースを流しながら全員で朝食をとっていた
「最近、この辺物騒よね。『死神』とか、『赤髪の殺人鬼』とか」
目玉焼きをつつきながらフブキは呟く

「明日は我が身、とか言ってられないわよね。ルソー、あんたも気をつけなさいよ」
「……わかってますよ」
まさか、自分がその『赤髪の殺人鬼』であることなど明かせるわけもなく
ルソーは朝食をすませると、玄関に向かった

フブキがそれについていこうとすると、突然、電話が鳴りだした
「誰、こんな朝早くに? 忙しいのに」
「俺が出てるから、お姉さんはあいつのとこに行ってやりな」
アイラは立ち上がると、受話器を取った

「はい?」
『あァ、もしもし……って、その声は『折り鶴』か』
「お前、あいつに仕事斡旋した眼鏡野郎だな?」
『ハシモト、な。名前位覚えろってェの。電話の出方は覚えたのによォ』
「うるっせぇ、首折るぞ。……で、何の用だ」



「……あっ」
「あ、ルソー君」
玄関を出てすぐに、ルソーはヤヨイとばったり遭遇した
ヤヨイはリードを掴んでいる。その先にいるのは、トイプードル

「朝の散歩ですか?」
「うん。毎朝ちゃんと行ってるの。ねー、マープル」
ヤヨイはマープルと呼んだトイプードルを抱き上げながら言った
「ルソー君は仕事? やっぱり、弁護士って大変じゃない?」
「慣れてしまえば楽なものですよ。今日は少し早いだけです」

「そうそう、昨日はありがとね。あれからあの人、回復したんだって」
「いえ、大したことはしてませんよ。それよりも、あの場で率先して人助けをしたヤヨイさんの方に感服です」
「いやぁ、それこそ大したことじゃないって。目の前で困ってる人がいたら、放っておけないでしょ?」

「いい人、なんですね」

ルソーのその言葉に、ヤヨイの顔から一瞬表情が消えた
だが、すぐに笑うと、マープルを地面におろした
「ありがと。それじゃ、またね」
ヤヨイは軽く手を振ると、マープルを連れて行ってしまった
ルソーは、表情が消えた一瞬で何を考えていたのだろうと、首を傾げた



「『仕立て屋』ぁ?」
一方、リビングで受話器を耳に当てていたアイラは、同じく首を傾げていた
『馬鹿、声がデカいだろうが』
「いいだろ、今、アンドロイドのガキしかいねぇんだから」

「で、その『仕立て屋』って何だよ」
『最近業界で騒がれだした殺人鬼だよ。昔からいたが、表に顔出してきて騒がれてる。今朝のテレビ、見たか?』
「ああ。気持ち悪ぃニュースやってたな。こう、死体が縫い付けられていたってやつだろ?」
『あれをやるのが『仕立て屋』だ。今まで表に出てなかったから、模倣とは考えにくいねェ』
電話口のハシモトはため息を吐いた

『兎に角そいつに気を付けろってルソーに言いたかったんだが、表の仕事が早いとは思わなんだ』
「帰ってからと伝えといてやるよ」
『おう、よろしく』

電話を切ろうとした矢先
『ま、『弁護士』なら大丈夫だろ』
そう言ったのは、ハシモトにしかわからないものだった