バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

『こんな屈辱って』:柴崎左京

「夢を見ていたのは認めますよ。僕は誰でも助けられると思っていた」

左京とこんなところにやってくるのは初めてじゃないだろうか。ちょっとだけ愚痴を聞いてくれ。左京からその言葉が出るのがあまりにも稀有で、思わずその場で頷いてしまった。

左京は酒にはあまり強くない。そもそも体質が酒向きではないのだ。赤くなった顔をわずかに持ち上げ、既にほろ酔いであろう左京は続ける。

「医者になれば、病気で苦しむ人をたくさん救えると思った。心療内科医になれば、心を救えると思った。……けど、待っていたのは、「神力」の開放だった」

 

左京は人の心が見える。

いや、正確には、人の心に救うトラウマが勝手に頭の中に流れ込む。

発現は医者になってからだろう。でなければ今頃、医者なんてやってない。でなければ、柴崎本人に希死念慮なんて持ち合わせることはない。

 

約束はいつか果たさなければならない。

勢いで結んでしまった「契約」は、柴崎がふいにしなければ解消されないことは俺自身も知っていた。だから、なんとかそう言ってくれないかと働きかけている。……まだ、彼の心は揺るがないようだが。

 

「あるとおもいます、こんな屈辱って」

 

「「ヒーロー」ほど苦しまなければならないなんて」

 

そういう左京は、なぜか微笑んでいた。