バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

3 明かしたくないもの

「うわっ!」
下がった勢いでしりもちをついてしまい、立ち上がろうとした瞬間、首元に刃が突き付けられた
「油断するな。これで俺に何度殺された?」
秀忠は血の色をした斧を信行の首元からはなして肩にかついだ

「ちょっと秀忠ー。ちょっとくらい手を抜きなさいよー」
傍観する家愛を見ながら秀忠は返した
「手を抜いてたらこの世界では死ぬ。それに、こいつまだ心器を出そうとしねぇ」
「それは私も気になってたんだよねー」

信行は正直なところ混乱していた
目の前で話す二人は殺人鬼だというし、自分は裏世界にやってきてしまったという実感もわかなかった
それ故に心器を使う余裕もなかったのだ

彼自身、自分の心器は好きではなかった
自分を暗示する心の象徴、「心器」
それを幼いころから知っていた信行は、それ故に人に近づけなかった
加えて周りからの差別により完全に人間不信に陥っていたことは言うまでもない

「信行君」
家愛がひょいと椅子から飛び降り、信行に近づく
「せめてさぁ、心器、見せてくれない?」
「え?」
「それが分からないともっと深くお友達になれないなぁと思うんだけど、どう?」

「い、いやです」
信行は後ずさりした
「僕の心器は、使っちゃいけないんです。人が、死ぬから」
「人が死ぬ?」
今度は秀忠の方が反応した

「いいじゃねぇか、それで。お前は殺人鬼なんだぞ?」
「いや、いやです!」
信行はたまらず外に飛び出した

「あーあ」
入れ違うようにイマイが入ってくる
「あの子、泣いてたよ?なにしたの、秀忠、家愛」
「どうしても心器を使いたくないんだって」
ふーん、とイマイは後ろを振り向く

「仕方ないね。今まで常人だったわけだし、あの心器じゃねぇ」
イマイは家愛が今まで座っていた椅子に腰を下ろす
「どっちか追いかけた方がいいよ。迷子になるかもね」

「秀忠、いこう」
「俺も? 仕方ねぇなぁ」
二人はゆっくりと後を追いだした
残されたイマイは背もたれに体をあずけ、ふっと息を吐いた