バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

4 はじめてのオフ会

SNSで知り合った人間とオフで会うのは初めてだ。
危なかったら逃げなさいと預けられた防犯ブザーを握りしめ、羽鳥は待つ。SNS上では気さくな女子高生のようだったが、彼女が書いているという小説は高校生が書くレベルのそれではなかった。
「山月ちゃん……。一体、どんな子なんだろう」

 

「あ、いたいた」
どきん。心臓が跳ね上がる。声がした方を向くと、女の子が一人、こちらに手を振っていた。
「やっほー。あんたがひなちー?」
「え、あ、はい」
「初めましてだねー。あたしが山月ちゃん。よろしく」

 

山月ちゃんは快活そうな女の子だった。華美なオシャレもせず、まるでいつもの友達と遊ぶように自分に接してくる。
「とりあえず、どっかのカフェでコーヒーでも飲もうか」
「あ、はい」

 

「へぇ、歌が好きで、カラオケ通ってたんだ」
かわいらしい見た目に反してブラックコーヒーを飲む山月ちゃんを見ながら、カフェオレを延々と混ぜ続ける羽鳥。普通の女の子にしか見えず、逆に緊張している自分がいる。
「あたしの友達もひなちーのファンでさ。僕の作った曲に歌を乗せてほしいなって言ってた」
「作曲家のお知り合いがいるんですか?」
「うん、幼馴染。今は引きこもりなんだけどね」

 

「山月ちゃんは、いつから小説を?」
「あたし? 気づいたら書いてた」
「気づいたら?」
「うん。小さい頃からずっと文章書く子でさ。今も趣味で小説書いてるの」
「ブログのですよね? 読んでます。凄く、胸にささるっているか」
「……ありがと」
その時、山月ちゃんの顔に少し陰りが見えた気がしたが、羽鳥は首を傾げるだけで何も言わなかった。

 

「えっと、山月ちゃん」
「イズミ」
「え?」
顔を上げると、にこにこの笑顔で山月ちゃんがこちらを見ていた。
「虎屋イズミ。イズミって呼んでよ。あたし、もっとひなちーと仲良くなりたいな」
「……!」
自然と、口が動いていた。
「……イズミ、さん」
「ふふ。このあとどうしようか。カラオケにでも行く?」
「あ、はい! ぜひ!」
ネットの壁に阻まれていたつながりが、ここで一つ確かなものに変わった。