バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

14 ネガティブ・アーティスト

「きいてる、なっちゃん?」
虎屋にそう言われ、なっちゃんと呼ばれた女生徒が首を縦に振る。
「聞いてるよ。また依頼でしょ?」
「……嫌?」
「嫌じゃ、ない。嫌じゃない、けど……」
俯くことで顔に差す影が、光を反射する眼鏡に顔を隠させる。
丸久夏子は虎屋イズミの友人だ。友人と呼ぶにはあまりにタイプも違うし、一方的に虎屋が丸久を振り回しているようにも見えるが、丸久自身は自分の「得意分野」を伸ばしてくれる虎屋に感謝していた。その感謝は虎屋だけではなく、その先に居る安藤にも及ぶ。
だが。
「ねぇ、何で私なの? 他の人のがいいって、思わないの?」
「なーにをいまさら。よしくんも私も、なっちゃんがいいからこうして継続的にお願いしてるんじゃない。……まぁ、無理はしてほしくはないけどさ」
 彼女はどうしようもないネガティブだった。

 

 丸久と虎屋の出会いは中学の頃だ。同じクラスになった時に授業で作った作品を見られて、ひどく感動していたのを覚えている。その場でSNSのアカウントを交換し、作品をネットに上げてるのを把握されたのはその時だが、虎屋が正式に依頼をしてくるようになったのは高校に上がってからだった。正直、高校は別になったのでそのまま疎遠になると思っていた。
「よしくんが、貴方の作品を気に入ったのよ」
 虎屋はそんなことを言っていたか。安藤と知り合いになったのはその直後だ。

 

 文句はない。寧ろ、ここまでよくしてもらってるのに依頼は依頼ときっちり事務的に行ってくれるので感謝してるくらいだ。そうなのだけれど、でも、でも。
「……今度は、どんな曲なの?」
 丸久夏子は自分の「絵」に、一切の自信を持っていなかった。