バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

15 怖がりな完璧主義

丸久は絵と機械が好きだった。
規範意識が強く校則を細部まで守らなければならないと強迫観念まで抱えていた。きっちりと校則を守る丸久を馬鹿にする生徒もいた。丸久は思っていた。どうして規則を破ることが怖くないのだろうと。
縛り縛られた丸久の楽しみが、絵を描くこととパソコンに向かうことだった。元来勉強好きだった彼女は早いうちからプログラミングの勉強もかじっていた。
だが、自らの作品に自信を持つことはなかった。彼女は完璧主義でもあったからだ。

 

小学校を卒業し、中学生になった。虎屋と出会ったのはその時だ。
虎屋は不思議な子だった。欠陥だらけの自分の絵やプログラミングを細部まで褒めてくる。本心からすごいと思わないと引き出せないところまで引き出してくる。
彼女は何か違うかもしれない。丸久は思った。友達も多く気さくな虎屋だったが、大人にも褒められ規則をきっちり守っていたからだ。そのことを虎屋に言うと、彼女はきょとんとした顔で返したのだ。

 

「だって、危ない橋わたるより、そっちの方が安全だし怖くないでしょ?」

 

丸久は自然と安全な道を選んでいた。できるだけ怖い思いをしない安全な道。高校に上がって、将来的に理系の大学に行って、プログラミングか事務につこう。そう将来設計を立てた時だった、虎屋が「危ない橋」を渡りだしたのは。
「虎屋さんは、将来が約束されてたんじゃないの?」
その質問に、虎屋は終ぞ答えることはなかった。

 

渡されたヘッドホンをじっと見つめる丸久。嫌じゃない。寧ろ楽しいくらいだ。なのに、どうしてこんなに迷っているのだろう。
なっちゃん?」
虎屋が不思議そうに声をかける。丸久は恐る恐るヘッドホンをかけた。

 

怖かったのだ。自分のすべてを埋め尽くそうとする音が。
そして、その音が選んできた声が。