ぐしゃぐしゃの視界【ディクライアン過去編・1】
すっと目を閉じると思い出す、二つの顔と赤い世界。
一人は泣き、一人は放心し、俺のことを見ていた。
俺は知っていた。
その悲痛な叫びをたたえる顔が、闇に呑まれていく弟たちであると。
「白井ー」
資料の束を抱えてKOGAの事務所を訪れていたディクライアンは、よく知る白髪の女性に声をかけた。
「今月分のNOGIの領収書だ。チェック頼む」
「はーい」
資料を渡してふと視線を上げると、白井と視線がかちあった。
「あっ」
「ん、どうした、白井?」
「い、いえ、何でも」
ディクライアンは分かっていた。白井の視線は、自分の目隠しにあったことを。
「それじゃ、俺はこれで。来週、出張に行くから土産、期待してろ」
「あ、はい!」
NOGIに戻り、自室へと足を踏み入れたディクライアンは、そのまま後ろ手に扉を閉め、寄りかかる。
「……」
ふっと息を吐き、彼は目隠しを外した。
何もなかったはずの目の前に、突然、赤い世界が広がった。