バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

【スーツ武器オフ会】面会【タイローン編】

「タイローン」

優しい声が聞こえた気がしてまどろみから覚めると、檻越しによく知った顔がいた。

俺と同じ顔、同じ目、同じ髪。なのに、何もかもが俺と違う、俺の「兄貴」。

「起こしちゃったね。ごめん」

ノイジー兄さんは申し訳なさそうに俺を見て言った。

 

「調子はどう? 食事はとれてる?」

兄貴の問いかけに答えられずに俯いていると、すっとゼリー飲料のパックが渡された。

「まだ、治ってないんだね」

何を指してるかは言わずともわかる。そしてそれは、ノイジー兄さんの「呪い」のように解けることのないものだということも分かっていた。

「君が模範囚だから、こうやって会うことができる。僕はそれが嬉しい」

「……俺は、こんなことしたくなかったからな」

 

「……あの、さ、タイローン」

僅かにうつむいたノイジー兄さんから漏れる言葉。

何を言いたいかは言わずともその態度で理解できた。そして俺は彼が口を開く前に返す。

「仕方のないことだ。ああでもしなきゃ、ディクライアン兄さんは俺に固執していた」

「……そう、だね」

 

ディクライアン兄さんも、たまにこうして俺の顔を見に来る。

だが、何も言わずにパックの粥だけを投げ渡して去っていくことが続いていた。

「正義」の信念を掲げるディクライアン兄さんにとって、俺は関わりたくても関われないのだろう。

「「正義」と「強さ」は、相容れるものなんだろうか」

自然とその言葉を漏らすと、ノイジー兄さんは俺を見ながら言った。

 

「それを証明するのが、今の君の使命なんじゃないかな」

 

立ち去っていくノイジー兄さんは足を引きずっていた。

彼も彼なりに苦労しているんだとは分かった。

手袋越しの素手で、檻を壊せたらどれだけ楽か。

考えて、やめた。「強さ」の証明は「正義」の元に。ディクライアン兄さんの元に。