普通じゃなくなった日【ディクライアン過去編・2】
ディクライアン・ノーティス。
生まれはイギリス、育ちはウィーゴ。彼としては生粋のウィーゴの人間だ。
下に弟を二人もつ五人家族の長男。真面目で実直な性格が好感を呼んでいた。
しかし、その幸せも長くは続かなかった。
何者がやったかは分からない。
ただ、黒い武装の人間が数人、家に上がり込んで両親を射殺したところから、彼の記憶は始まっている。
その後一瞬の暗闇の後に、目覚めたのは、燃え盛る家の中だった。
「ノイジー! タイローン!」
彼は弟を必死に探した。
弟は、両親が死んだ場所で見つかった。
「ひっぐ、ひっぐ……」
あふれ出る涙を必死にこするノイジー。
「……」
信じられない景色に呆然とするタイローン。
助けなきゃ。ディクライアンは思った。助けなきゃ、弟たちまで死んでしまう。
彼は二人の手を引いて玄関のドアを開けた。
焼けた金属製のドアノブに手のひらの皮膚を持っていかれたが、そんなことどうでもよかった。
彼は目を開いて言った。
「誰か……助けてください……!!」
目の前で火災を見ていた人間が、次々に手を伸ばした。
幼き日のディクライアンには、それが「洗脳」であることは、わからなかった。