バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

【スーツ武器オフ会】怪物の告白【ノイジー編】

ここはどこだろう。
何も見えない。何も聞こえない。ただ、とても心地がいい。
ふわふわと宙に浮いたそんな感覚。

ふと上を見上げると、よく見知った姿がそこにあった。
二振の刀を握りこちらを見下ろす「怪物」……、もう一人のノイジー・ノーティス。
元来こいつとは仲が悪かった。争いを好まない自分と正反対の、冷酷な刀使い。そして、音を食らう張本人。
だが、その時ばかりは彼も無表情のまま、その場を立ち去って行った。


すっと光が差し込む。少し硬めのベッドにノイジーは横たわっていた。
どうやらあれから医務室に運び込まれたらしい。ふと横を見ると、心配そうに西名がこちらを覗きこんでいた。

「ノイジーさん、ごめんなさい。わたし、びっくりしちゃって」
「ああ、いいんです。勝手に入った僕も悪かったので」
そう言ってノイジーは気が付いた。
先ほどまで自分の中で渦巻いていた「音」が、聞こえなくなっていた。
同時に分かる。今は、西名が向ける好意しか、その音が聞こえない。

「……怖く、なかったですか」
ノイジーは恐る恐る訊いていた。
抜かなかったとはいえ、刀に手を置いていたノイジーは、自我を保っていたとはいえ「怪物」の片鱗を多かれ少なかれ西名に見せていたはずである。
なのに、西名はきょとんとして言うのだ。
「何が、ですか?」

「何も怖くないですよ。ノイジーさんはノイジーさんじゃないですか」
寧ろ、この時怖がっていたのはノイジーの方であった。
こんなにも好意を向けてくれて、いつでも構ってくれて、たまに振り回してくるこの女性が、自分から離れていくのが容易に見えた気がして。

「僕は……」
彼は一度そこで閉口した。しかし、不思議そうに眺めてくる西名を見て、腹をくくった。
危険なことが起こる前に彼女には明かしておかなければならない。
たとえそれが、彼女が離れる結果となるとしても。
ぐっと唾を呑み込み、彼は言った。

「僕は、怪物なんです」

彼は話した。
刀を抜けば冷酷になることも。気持ちを音として感知することも。そして、今やその音が感知の域を広げ、どんなものでも音として聞き取り、食らうようになったことも。
何時しかぼろぼろと涙を流していた。眼鏡をはずし、乱暴に拭う。
「最後」になるかもしれない会話を、彼は噛みしめて話した。

「ごめんなさい」
最後にノイジーは言った。
「ごめんなさい、こんな人間でごめんなさい。僕は、僕は貴方すら守れなかった」
冷酷な「怪物」がこちらを覗きこんでいる。
ノイジーはベッドからはい出て立ち去ろうとした。

『おい』
「怪物」だけが、その異常性に気づいていた。