バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

「洗脳」から「凄惨」まで【ディクライアン過去編・4】

何時だったかは覚えてない。思い出したくもなくて忘れている。

いつものように手に入れた物資を分けている時だった。

「タイローン……?」

末の弟であるタイローンの様子がおかしいことに気が付いた。

あの時のノイジーのように、縮こまってこちらを見ようとしない。

 

「どうした、タイローン。具合でも悪いのか?」

手を伸ばそうとすると、その手を払われた。

仕方ないかと思った。ここはゴミ捨て場。腐臭に体がやられたものだと思っていた。

「……兄貴」

やがて、タイローンが口を開いた。

「俺を……置いていってくれ」

「タイローン?」

「俺は、もうだめだ。人として生きていくことができない」

「何を言っているんだ、タイロー……」

 

「離れてくれ!」

タイローンの手がこめかみに伸びる。

焼けるような痛みと腐臭が、俺を襲った。

「うわぁぁぁ!!!」

予想外の痛みに思わず悲鳴を上げる。

なんとかタイローンと目線を合わせようとしたが、彼の手に視界が阻まれてどこを見ているのかも分からない。

 

「兄さん!」

ノイジーがタイローンに体当たりし、その手は離れた。

俺は思わずその場にしゃがみこむ。

「……ごめんね、タイローン」

ノイジーは俺の手を引くと、走り出した。

俺は離れ行くタイローンに手を伸ばすことしかできなかった。