「洗脳」から「凄惨」まで【ディクライアン過去編・4】
何時だったかは覚えてない。思い出したくもなくて忘れている。
いつものように手に入れた物資を分けている時だった。
「タイローン……?」
末の弟であるタイローンの様子がおかしいことに気が付いた。
あの時のノイジーのように、縮こまってこちらを見ようとしない。
「どうした、タイローン。具合でも悪いのか?」
手を伸ばそうとすると、その手を払われた。
仕方ないかと思った。ここはゴミ捨て場。腐臭に体がやられたものだと思っていた。
「……兄貴」
やがて、タイローンが口を開いた。
「俺を……置いていってくれ」
「タイローン?」
「俺は、もうだめだ。人として生きていくことができない」
「何を言っているんだ、タイロー……」
「離れてくれ!」
タイローンの手がこめかみに伸びる。
焼けるような痛みと腐臭が、俺を襲った。
「うわぁぁぁ!!!」
予想外の痛みに思わず悲鳴を上げる。
なんとかタイローンと目線を合わせようとしたが、彼の手に視界が阻まれてどこを見ているのかも分からない。
「兄さん!」
ノイジーがタイローンに体当たりし、その手は離れた。
俺は思わずその場にしゃがみこむ。
「……ごめんね、タイローン」
ノイジーは俺の手を引くと、走り出した。
俺は離れ行くタイローンに手を伸ばすことしかできなかった。