バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

1 忌み子と化け物

腰が抜けて、動けなかった。

後に三人はそう語る。

男は、地元でも危険とささやかれた森に投げ込まれ、帰る道を探していた途中だった。

二人の女は偶然にも同じ理由で男とはちあわせ、一緒に道を探していた。

 

「……ふー」

目の前に立つ赤と青の装束。

髪色も背丈も違えど、二人は似たような気配を纏っていた。

そして、さらにその奥に見える黒い物体。

スライムのようにぐずつき、粘り、やがて蒸発したかのようにそこから姿を消した。

 

「さて、乙哉」

赤い服の男が振り返った。

赤い瞳。それは後から振り返った青い服の男と目の色は違えど同じ輝きを放っていた。

「こんな森の奥に捨てられた三人、何か事情がありそうだけど、わかるか?」

「「忌み子」だね。美麗、知恵、知識。」

男は驚いた。何も話さなければ普通の人間であるというのに、自分を忌み子と見抜いたからだ。

それだけではない。一緒に連れ添った二人の女も、まさか忌み子とは思わなかった。

赤い服の男は「そうか」と呟いてこちらに歩み寄ってきた。

男は思わず二人の女の前に庇うように立っていた。

 

「!」

「何をする気だ。事と次第によっては君たちも敵とみなすよ」

男は本気だった。

忌み子と知られてしまった以上、相手も信用ならなくなっていた。

赤い装束の男はぽかんとしていたが、やがて口角を上げ、男に笑いかけた。それは決して嫌なものではなく、寧ろ男を安心させようとしていた。

 

「気に入ったよ。三人とも、うちにおいで」

「えっ」

「乙哉、どうしたい。俺はこの男性の面倒を見たいんだけど」

「じゃあ、俺は後ろの女性二人を見ることにしようかな」

赤と青の間で男を置いてとんとんと話が進む。

男はただ黙って二人を見ていることしかできなかった。

 

「決まり。立てるかい、お嬢さんたち」

青い装束がこちらに歩み寄り、女たちに手を差し伸べた。彼女たちは恐る恐るその手をとって立ち上がる。

「あ、あの」

「ん? ああ、俺たちのこと、何も知らないんだよね」

青い装束が人懐こい笑顔で返した。

 

「俺たちは「四神の申し子」。君たち「忌み子」を救う活動をしているんだ。よろしくね」