バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

26 策士の攻防

放たれるナイフをはじいて華村はふっと息を吐く。距離を詰め鎖をふるうも先方も的確に分銅をはじく。
松浦と名乗ったこの男、自分と同等以上の実力があると見た。こちらには自分とカワウチ。戦略を練るのであればここは二人で押したほうが確実に勝てるのは分かっていたが。
「カワウチちゃん、すぐに引き返して隊長に報告を!」
「何言ってるんすか! 華村さんを一人にできるわけないっすよ!」
「僕は平気だ。ここで共倒れするより情報を早く渡したほうが賢明なはず」
華村は鎖を引き寄せ、構えなおす。
「「洗脳」してでも僕は送り出す。だから、今のうちに!」
「……絶対、無事でいてくださいっす!」

 

踵を返して走るカワウチを、松浦は見送る。
「……追わないんだね」
「いずれまとめて潰す算段ですから。一人ずつ確実にやったほうがいいでしょう?」
松浦の手元にはすでに次のナイフ。
「休ませるつもりはありませんよ」
「……来い」

 

茂みをかき分け走るカワウチ。
華村の無事を確保するには、できるだけ早く選抜隊の元に戻る必要がある。それは頭が弱いと自称するカワウチ自身もわかっていた。
「こんな時に、自分も音になれたらどんだけ楽か……」
ぎりりと歯を食いしばり、カワウチは走った。

 

鎖でナイフを落とす華村だったが、その距離は一向に縮まらない。遠距離からナイフを放つ松浦に近づけないがために、鎖の端も届いていないのだ。
「……しかし、馬鹿なことをしましたね、あなたも」
「なんだって?」
ナイフを構えたまま松浦は笑う。
「私はですね、世の中の不純物である忌み子を抹殺するなら手段を選ばないんです。ですので存在をあえてひけらかし、貴方達をおびき出しました」
華村は気づく。これがそもそもの罠であったと。しかし、それだけでは終わらなかった。松浦は口の端を上げたまま言ったのだ。

 

「だれが、「私は一人だ」といいました?」

 

帰路についていたカワウチを阻んだのは、二人の男であった。