バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

27 逆転の兆し

「そこ、どけっす!」
身の丈のハンマーを振り回すも、男二人は簡単にかわしていく。いや、使い慣れているとはいえ重量のある武器を背の低いカワウチが振り回すのには無理があった。
「こんのぉ!」
「よっと」
振り下ろしたハンマーを体格の大きな男、梅沢充が片腕で受け止めた。
「なっ!」
理解する前に後ろから飛んできた小さい男、竹田二郎がかるく梅沢の頭上を越えて飛び上がり、カワウチに蹴りを一発。もろに食らったカワウチは吹き飛び、近くの木にしたたかに頭を打ち付ける。
「いってー!」
「はっはっはー! 身の程を知ったか、チビ女!」
「あんたよりはでかいっす!」
捨てられたハンマーを見送り次のハンマーを取り出すカワウチ。一人では勝てない。どうする。

 

 一方、拮抗する戦いを続ける華村と松浦。この戦い、おそらく体力の尽きたほうが負ける。だが、
(そう考えると、僕のほうが不利なんだよな……)
ナイフを放つだけ、よけるだけの松浦と違い、常に鎖を操っていなければならない華村のほうが消耗が大きいのは分かっていた。最初の体力に差があっても、今はおそらく平行線。このままでは自分が先に倒れる。
「いい加減諦めたらいかがですか。忌み子風情が何を考えているかわかりませんが、私たちが呪われた血に負けるわけにはいきませんからね」
「お断りだね。忌み子だって人間だ。不当に扱われていいわけがない」
華村に残された道はひとつ。「時間稼ぎ」である。なぜなら、彼は知っていた。

 

 「……ねぇ、そんなに余裕をかますんだったら、僕からも一言、君の言葉を返してあげるよ」

 

 襲い来る二人の男。このままハンマーをふるっても勝てない。そう思っていた。
「……よお」
低い声がカワウチの耳に入った。次いで衝撃音。大の男二人が同時に吹き飛ぶ。カワウチが顔を上げると、よく見知った、頼もしい背中があった。

 

 華村の余裕にひるんだ松浦。彼から放たれるナイフ。しかし、それは彼に届く前に全て叩き落された。二人の間に、華村の信じていた「救い」があった。

 

 「誰が、「僕は一人だ」といった?」