バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

25 壊滅的一般論

「しかし、何であたしと華村さんなんっしょ」
森の道を歩きながらカワウチは言う。今、この道を歩くのは華村とカワウチだけである
「カワウチちゃんはなんとなくわかる気がするけど、僕もとなるとなぁ」
「逆っすよ。華村さんは素行もいいし信頼が厚いけど、あたしなんてただの雑用っすよ」
「ポテンシャルはすごいじゃないか、君」
浩太曰く、本当はもう二、三人つけたかったが、多すぎる人数で敵が警戒するのを恐れてのことだった。そしてカワウチの暗示は『残響』。音の反射を利用した通信手段を持っていたのである。もっとも、それを無意識にやっていて気づいていないのはカワウチ本人なのだが。

 

「……ねぇ、華村さん」
「なんだい?」
長時間の見回りに飽きてきたのだろう。カワウチが口を開く。
「忌み子って、どうして、どうやって生まれてくるんすかね」
「うーん。考えてみれば、先天的な違いこそあれ見た目は普通の人間と変わらないよね」
「っしょ? それに、たまたま暗示がついてきただけなら、忌み嫌うより祭り上げるとおもうんすけど」
華村は顎に手を当てて考える。

 

「……うらやましいのかもね」
「え?」
「カワウチちゃんは思わないかもしれないけどさ、特別なもの持ってる人を見ると、人って結構妬んじゃうんだ」
かつて自分を「吸血鬼」と呼んだ人々を思い返しながら彼は言う。
「でも、奪い取ることはできない。なら、突き放して落としてやろうって思うんじゃないかな」

 

「……華村さん、怖い」
「え?」
華村の表情が変わったわけでも、姿が変わったわけでもない。ただ、カワウチには。
「そういうことを平然と考えられる華村さんが、ちょっと怖かったっす」
「そ、そうかな」
困惑したように笑う華村。その笑いも作りものなのだろうか

 

「失礼」
不意にそんな声が聞こえ、二人は足を止めて前を向く。
いつの間に現れたか、黒い服に身を包んだ男がそこに立っていた。
「その装束。忌み子がこの件に絡んでいるというのは本当のことだったようですね」
「君、どうして忌み子のことを」
「失礼、紹介が遅れました」
半身になって構える華村達を見ながら、男は一礼し、服のうちポケットからナイフを取り出した。

 

「私、松浦一と申します。忌み子を討伐しにやってまいりました」