バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

36 もう一つの「事件」

 さかのぼること数時間前。ちょうどカワウチと華村が松浦と対峙していた辺りの時間のことだ。
 システム管理をしていた斎藤と立花の交代の時間。二人は巨大コンピュータの前で談笑していた。
「しかしながら、興味深いコンピュータです。この時代にここまでテクノロジーが進んでいるとは」
「りかに同意します。禁忌に触れるまいとしているほどの出立です」

 

 申し子たちの管理のもとに成り立っているこの巨大コンピュータは、通信はもちろんの事、世界中のあらゆる情報を簡単に集めることができる夢のような機械であった。
 コンピュータの扱いに慣れていた斎藤と立花でさえ、基本的な操作を覚えるまでに数日かかっている。

 

「お疲れさまー、二人とも、甘いもの食べる?」
そこに部屋の扉をあけて乙哉が入ってきた。片手の皿にマカロンを積んでいる。
「ありがとうございます、乙哉様」
「いただきましょう、うるは」
二人が歩み寄り、そっとその皿に手を伸ばした。

 

同刻、館の外に二つの人影があった。男と女が一人ずつ。
存在に気付いた入り口の見張りに笑顔で、本当に嫌みのない笑顔で近づき、男は言った。
「ここに収容されているシステムと会話がしたいんだ。通してくれたまえ」

 

 瞬間、館の電気が一斉に落ちた。