バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

30 我が軍門に下れ

 目の前に縛られた男三人。華村は困惑している。生かすのは分かる。というか、殺しては後味も倫理観も悪い。だが、捕まえて何をするというのだ。同じく困惑しているカワウチと共に、目の前の田辺と浩太を見守る。
「これで全部か。もっと人数がいるかと思ったが」
「目の前でカワウチちゃんを逃がしたことを考えたら、妥当な人数なんじゃないかな」

 

困惑しているのは縛られて放置されてる松浦、竹田、梅沢も同じだ。
「何考えてんだ、あいつら」
「敵と分かったなら一思いにやるかなーとか思ったんだけど」
武器の群の下敷きになった竹田と梅沢だが、その武器群の中に刃物も火器もなく、こん棒の類だけだったために打撲程度にとどまっていた。
「援軍もいなさそうだね。本当に三人だけで忌み子に立ち向かおうとしていたのか」
「根性は十分。意志もはっきりしてる。……考えることは一緒だな、伊藤兄」
二人はにっと笑うと、縛られた三人に向かっていった。

 

「ねぇ、君たち。僕らの軍門をくぐる気はない?」

 

「はぁ!?」
その場にいた全員が驚く。
「正気ですか、浩太さん!」
「そうっすよ! 何でついさっきまで戦ってた敵を!」
「彼らは勘違いをしているんだ。和解はできるだろうし、こちら側に回ってくれれば心強いと思ってね」
「……はっ、何を言い出すかと思えば。いくら四神の頼みとはいえ、私たちは忌み子の肩を持つなんて」
「おい眼鏡」
反論する松浦の胸倉をつかみ、田辺は乱暴に持ち上げた。
「拒否権をてめぇらにやるつもりはねぇぞ。浩太だから無傷で済んでるが、今度は俺がぶん殴るぞコラ。文句あんのか」
「イエ、アリマセン」
「田辺。とりあえず落ち着いて」
乱暴に捨てられた松浦を含む三人を見やり、浩太は言った。
「忌み子についてはちゃんと教えてあげるよ。正義のために戦いたいという意思は、俺たちも君たちも同じようだからね」

 

「……さ、帰ることにしようか。石川たちが待っている」
「はい。……カワウチちゃん?」
明るく返事をした華村だったが、ふと、眉間にしわを寄せるカワウチが目に入った。カワウチはそのまま目を閉じ、耳をそばだてる。
「……港町の方角で、何か、大きなものが暴れてるっす!」
「!」
全員が、木々をかき分け走り出した。