バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

39 機械頭と『声』

「「サイボーグ……?」」
「そ。ぱっと見分からないけど、この男の人……、東雲さんって言ったっけ、彼の体内に機械が存在する。正確には、ここに、ね」
乙哉は頭をこつこつと叩いて示す。
一度気絶し戦闘不能になった侵入者二人を、乙哉は捕らえたり追い出すようなことをしなかった。むしろ自由なまま斎藤と立花に指示を出し、怪我の手当てをしていたのである。曰く、この二人に一切の悪意はない、と。
目を覚ました二人は最初こそ警戒したが、状況を呑み込むのが早かった男、東雲光里は大人しくその場に膝をつき、ついてきていた女性、リアもその場に座らせた。
「つまるところ、リア様はロボットで、東雲さんが出す指示に従っていた、ということですか」
「そういうこと。頭のいい君たちなら、リアさんがただ頑丈な人間じゃないことにはすぐ気が付いたはずだ」
そう、防御行動をとった時に服や皮膚が破れたにもかかわらず出血しなかったことに関しては二人も疑問をもっていたのだ。

 

「そして、東雲さんはリアさんを含めた一定範囲の機械を制御する電波か何かを発することができる。館のシステムが停止したのも彼の仕業。だから、彼が気絶した段階でジャベリングが解けてシステムが復旧し、指示が得られなくなったリアさんは動けなくなったわけだよ」
「君、どんな目を持ってるんだい? リアがロボットだと見破られても、僕の脳が機械であることを見破ったのは君が初めてだ」
「僕はちょこっと人を見る目が特殊なだけだよ。……さて」
乙哉は手元でナイフを回しながら問う。
「君の自由意思を尊重したいからはっきり聞くよ。君は、ここに何しに来たの?」

 

「……荘厳な『声』が、聞こえたんだ」
東雲は視線を落とす。
「僕には機械の『声』が聞こえる。今までこの力を使って機械と対話し、あらゆる機械を時に救い、時に開放してきた。人間の敵になることもあったさ。けれど、僕は「人間」じゃないからね」
その口元は、笑っている。
「だから、色んな『声』を聴いてきた。けど、この付近を通った時、不意に地下から『声』が聞こえたんだ。今まで聞いたことない、荘厳で、重みのある『声』」
だが、声は震えている。
「僕は思わずそちらに歩いてしまった。あの『声』が聴きたい。会話がしたい。地下に封じられた『彼』が何を思っているのか、聞いてみたい、と。だから、抵抗しなければ君たちに危害を加えるつもりはなかったし、それは今も変わらないよ」

 

「……」
斎藤と立花が顔を見合わせる。
「どうします、りか」
「私たちよりも、乙哉様が」
「斎藤さん、今のコンピュータの動作は安定してる?」
乙哉の問いかけに、コンピュータまで走ってウィンドウを立ち上げる斎藤。
「……問題なく動作しています」
「じゃあ、立花さんと動作を監視してて」
「乙哉様、それは……」
立花の声に、乙哉はうなづいた。
「僕も、『彼』が何を思っているか聞いてみたい。好きなだけ話しておいで。きっとそれが『彼』の息抜きになるかもしれないからね」