バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

38 異常な女性

 最適解ではあったはずだ。これでもだいぶ扱いには慣れてきた。それでも重いものを振り回すのは体まで持っていかれるのでつらいところがある。
 その体を持っていかれながら斎藤の放ったメイスがリアを直撃する。だが。
「……無傷、ですって?」
肘を曲げて防御態勢をとってこそいるものの、普通骨が折れていてもおかしくない一打を完全に防ぎきり、リアは骨折も出血もしていない。
「非常に強い衝撃を観測。しかし、耐えうるものと判断いたしました。戦闘を継続します」
「うるは、離れて」
立花が後方からモーニングスターの鉄球を振り上げ、体重ごと振り下ろす。宙を舞った棘つきの鉄球がリアを頭上から襲う。ところがこれもリアは頭上で腕を交差させて受け止めてしまった。無論、かすり傷程度しか残っていない。
「どういうことですか」
「対象の静止を確認。意識レベル正常。攻撃を開始します」
「!」
斎藤がリアの正拳突きをメイスで受け止める。響く堅い音。斎藤は強い衝撃を受けわずかに後方によろける。
「なんですか、これは」
「うるは、大丈夫ですか」

 

感情の乗らない斎藤と立花の会話。棒読みにも似たそれは、しかし焦りを含んでいると、様子を見ていた乙哉は感じ取っていた。
「あんなもの食らっては、ただではすみません。防御は正確に行ってください」
「そもそも、普通の女性にあの威力の素手攻撃ができるのですか」
「……斎藤さん、立花さん」
そして、傍観を決め込んでいた乙哉にはすでに侵入者二人の「素質」を見抜くのに十分な時間を与えられていた。
「あと3秒、頑張れる?」
突然の乙哉の問いに警戒するリアと男。斎藤と立花は一瞬振り返り、互いに顔を合わせ、うなづいた。
「「必ず」」
「ごめんね。あと少しだけ、頑張って」

 

 手元で小刀を回した乙哉は、斎藤と立花の後方から蹴りだした。リアが気づいて止めようとするが、ふっとその姿が消える。いや、上空に浮いていた。
「リア!」
「博士、退避を!」
リアが叫ぶ間もなく彼女を飛び越えた乙哉は、逆さに持った小刀の柄を東雲の首筋に強く打ち付けた。衝撃と共に後方によろけ、その場に崩れる東雲。それと同時になにもしていないはずのリアも膝をつく。
「指示系統、消失。緊急停止……」


 静かになった部屋。電灯の明かりがつく。
「館のシステムが回復していきます」
「乙哉様、これは、一体……」
「結論から言うとね、この男の人、そこにいる「ロボット」を含めた機械系統を全部支配していたんだよ」